むり、とまんない。


でもどうすることもできなくて目をきょろきょろさせていたら、遥はまたふっと笑う。


「胡桃」


「なっ、なに、」


「言って?俺に。
おはようって」


「……お、おはよう」


「だめ」


「な、なんで」


『ちゃんと俺の目、見て』


「っ〜!!」


近いっ……!


スっとあごを持ち上げられてしまえば、目が合うのは必然で。


てか、あいさつってこんな顔近づけてするものじゃないよね!?


それに、催促されてあいさつするのも、すごくはずかしいし……。

なのに、期待と愛おしさを含む目に見つめられて、それに応えたいと思う私も大概だけれど。


「胡桃」

「お、はよう……」


鼓膜を震わせるほどの甘ったるい声。

こんなの、素直になるしかない。


「ん、これから毎日な」

「ま、毎日!?」


こんなの毎日やってたら、私いろんな意味で死んじゃうよ!


「約束」

「ちょっ、そんな強引……!」



「それで?」

「そ、それで?」


「うん。
この次は?」


どうするんだっけ?


私が狼狽えているのをよそに、どんどん話を進めていく。

私は知っている。


一度スイッチが入った遥はとまることを知らないって。


「さっきのやつ、やって?」


ほら、やっぱり。


口角をあげて、ニッと笑ういじわるな顔。


でも、なんだろう。

なんか、めちゃくちゃ嬉しそうな顔してる……?


口元を緩ませて、目尻はこれでもかと下がっている。


どんな女の子の前でもクールなのに、私の前だけではこんなに優しく笑ってくれる。


そう思ったら胸がきゅーんとしめつけられて、どうしようもないくらいの喜びがこみ上げてくる。
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