むり、とまんない。


私服に黒マスクをつけた遥。

な、なんでうちに……!?

桃華に用事!?

てか、仕事行ってたんじゃなかったの!?


ピーンポーン。

っ、またっ!?


「はい……」


あっ……。

居留守を使おうと思ったのに、つい反応してしまった。

やばいやばいやばい!!

どうしよう!?

どんな顔して会ったらいいの!?

てか、やっぱり本人目の前にしてふつうはむりだって……!

なんて後悔してもあとの祭り。


「俺、遥だけど。
買い物行くって言ってたって杏から聞いた」


買い物?


って、あ……っ!

もしかして屋上でふたりがコソコソしてた理由ってこれのこと!?

そういや前に遥から買い物行くときは声かけてって言われてたし、その話も杏たちにはしたけれど。

急展開すぎるよ!


「胡桃?」

「っ……」


その声がなんとも優しいといったら。


「もしかしてまた体調わるい?
大丈夫か?」

「っ……」


だから、やめてよ、それ……。

急に優しくされると困るんだよ。

「かわいい」もそうだし、ずっとはなれてた分、私の中でクールな遥が定着しすぎて、戸惑ってしまうから。


いくら幼なじみで他の女の子たちよりも近いきょりにいたとはいえ。


こんなに直球で心配と言わんばかりの目をする遥なんて、ほとんど見たことがなくて。

今日は朝からずっと。

声も、視線も。

他の女の子たちに向けるのとはちがう、冷たさの欠片も感じないまなざしで見つめるから。


心臓が、痛いくらいにドキドキ言ってるんだよ……。


「いま、行くから……ちょっと、待ってて」

「……うん」
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