その星、輝きません!
 「ぎやあああーー」

 耳元で、叫ばれた悲鳴に、両耳を手で押さえた。
 彼女より、早く起きるつもりなのに、しっかり寝てしまっていたようだ。


「いきなり大きな声出すなよ……」

「だ、だって。何で、同じベッドに寝てるのよ! もう一つベッドルームがあったじゃない」


「覚えてないのか? テラスで酔っ払って踏ん反り帰って寝ていたから運んできたんだ。寝相悪くて、ベッドから落ちそうだったから、押さえていただけだ。気にするな」


「はあ? 気にするでしょ! 寝相なんて悪くない」


 彼女は飛び出すようにベッドから降り立った。枕を抱え、ギロリと俺を睨んでいる。


 怖い……


 でも、怒った顔は、なんだかちょっと可愛い……

 やばい、にやけてしまいそうだ。


「ルームサービスを頼もう」


 状況を誤魔化すように、電話に手をかけた。

「いいです。私は、朝食ビュッフェに行くから」


「どうしてだ? 自分で皿に取るのは面倒臭いだろ?」


「ええ! あんなに美味しそうな物が食べ放題なのよ! 好きなものを好きなだかけ食べられるなんて最高じゃない! 私は一人でもいいから、あなたはお部屋でどうぞ」


「分かったよ、一緒に行く」


 仕方ないと言うようにベッドから降りたが。嬉しそうに、準備を始めた彼女の姿に、俺が一緒に行く事が嫌そうではなくて、ふっと笑みが漏れてしまった。


 本当に楽しそうに、料理を皿に盛りつけている。


 旅の始めは、俺のペースに驚いたり、怒ったりしていた彼女だったのに、いつの間に彼女のペースに俺が乗らされている。

 彼女に付き合わされてスパなどもやってみた。
 ここ何年も仕事に追われていて、心からゆっくり休めてたのは久々だった。
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