2人なら…「推しと彼氏と彼女の関係」
リュウが肩で大きく息をして、目を閉じる姿が見える。

緊張だけが静かに張り詰める。

「グランプリは…エントリーNo.24番、出身東京都
リンドフィールド 滝沢流青さん!!おめでとうございますっ!!」

司会女性の声が耳の後ろでくぐもって聞こえる…

感動と興奮と高揚と…罪悪感。

リュウはエントリーナンバーを聞いてガッツポーズと共にモデルの男の子と抱き合った。

「やったっ!やった!やったーーー!!」とオーナーが思わずアリスさんの手を取って肩を叩き合う。
「やったーーーー嬉しいっ!てか…痛いですってぇーーーー笑」
2人の喜び合いに、笑いすぎたハルちゃんが振り向く。
「夢みたいっ…すごいっ!滝沢さん。ねっ!ハルさんっ!
あ…あれ…?ハルさん?」
隣にいたはずの私が忽然と姿を消していることに気づいた心ちゃんはざわめく会場にキョロキョロと視線を泳がせた。


トイレの洗面で口元を拭って、うがいをする私の背後からアリスさんが声をかけてくる。

「感動しました。点数も評価も高くて…さすがでしたね流青君。
大丈夫ですか?顔色悪いですよ…。」

私は顔を上げた鏡越しにアリスさんを見る。

「大丈夫です。感極まってしまって…。緊張が解けすぎたのかもしれません。」
上擦った自分の声。
その気持ちに偽りはないけれど…

「滝沢君の子供ですか?」
「…………。」
私は黙って下を向く。
洗面台にちょろちょろと水が細く流れていく。
無音だったら耐えきれない空気。

「な…訳ないですよね。」
「…………。」
会話をしてもしなくても、逃れる展開にならない気がする。
「さっき、田上さんとの話、聞こえちゃったんです。
ごめんなさい。
あ…てか…聞いちゃったんです。」

アリスさんはらしくなく…頭を少し下げるともう一度、ごめんなさいと謝った。

「田舎に帰って、1人で育てるつもりですか?」

「リュウの側にはいられないから…。」
「最低…ですよ。滝沢君が可哀想過ぎます…。」

アリスさんにしては…いつもより口調が柔らかい。
人は相手に対して諦めると優しくなれるのだろうか…それとも失望…。
失望すると優しくなれるのだろうか…?

まさしくアリスさんは私に失望している。

「リュウには言わないで。」
「言える訳ないでしょ…あなたの彼女は浮気してますよ。しかも、当たり前ですが相手は男です…なんて、言える訳ないでしょっ…」

「そうですよね…言える訳ないですよね。
そもそもが全部、私たちは間違いだらけだったと思うから。」

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