2人なら…「推しと彼氏と彼女の関係」
《…光と影…》
scene.3

リュウからの着信を数回、スルーして私はしばらくあてもなく街を歩き回り…そして疲れて…久しぶりに自宅アパートへと帰った。
奈々美ちゃんの件があって以来、着替えを取りに戻っていただけの私とスゥのアパート。
恐る恐るリビングの電気をつけると明るさに少し安堵した。
けれど、やっぱり…刃物の傷をガムテープで補修したソファーには胸をえぐられたような気持ちになる。
奈々美ちゃんの嗚咽を思い出す。
狂気のような「会いたい」に背筋が寒くなる。

私はそっと下腹に手を当てる。
この子を守らなきゃ…
この子をどうしたら守れるのだろう…

私は玄関にかけ戻り、鍵がかかっているかを確かめてチェーンもしっかりかかっているかを確かめる。

もう既に新しい鍵が取り付けられているというのに…
指先が震える。

私の足は自然とスゥの部屋へと向かい…ストンっとベッドに腰掛けた。

あの日の夜のことも…スゥとの日々も、全部間違いだったと言うのだろうか…。

「穴あけちゃいましたから。全部。」と笑った奈々美ちゃんの顔。
「グランプリしかいらないから…そうしたらハルに、ちゃんと言えるような気がするから」と真っ直ぐなリュウの瞳。
「最低ですよ。滝沢君が可哀想すぎます。」とアリスさん。
どの声も私を責めて追い詰めてくる。
それでも…ただこの子を守らなきゃ…それだけは迷いはない。

私は大きなため息と共にパフっとベッドに横になる。
…と同時にスマホからアラームが鳴った。
D.DオーディションのファイナルLIVEの配信の始まりをアラーム設定していたのを忘れてた。
ベッドから跳ね起きてライブ配信コンテンツをTVで開き少し行儀良く座り直した。
スゥの枕代わりのクッションを胸に抱くとギュッとしながら画面を見つめた。
やっぱり、テレビの切り取りは巧妙で…これまでの振り返り動画のスゥはどの表情もカッコよくて、透明感と真剣な眼差しは誰よりも美しく、スターとして仕上がっていた。
LIVE と左上に貼られた画面越しの彼は少し緊張の面持ち。笑顔は見せつつも…カメラが離れると天上に向かって長い息を吐いていた。

私は手にしたクッションと腹部に力を込めて…同じく長い息を吐いた。

現実感がない。
配信されるカッコ良すぎるスゥも…パパになるスゥも…全てが、非現実過ぎた。
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