婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「俺はかまわないが、一葉の顔が真っ赤だ」

 彼は笑いながら私を手放す。

 そのとき、私たちの横に誰かが立った。

「支社長、おかえりなさいませ」

 ふいに聞こえてきた男性の声に驚いて、肩を跳ねさせた。

「ああ。山(やま)下(した)君、わざわざありがとう。一葉、秘書の山下君だ」

 亜嵐さんに紹介され、私は名乗って頭を下げる。

「秘書の山下です」

 きちっとお辞儀をする山下さんは、亜嵐さんより年上に見える。髪を七三に分け、中肉中背で、男性の平均的身長だ。

「一葉、すまない。これから会社へ行かなくてはならないんだ。俺を社で降ろした後、運転手に送らせるよ」

「ううん。顔を見られただけでいいんです。私は電車で帰りますから、亜嵐さんは気にせずに会社へ行ってください」

「そういうわけにはいかない。社に着くまでは一緒にいられる」

 そう言われると、そうしたい気持ちに駆られて乗せてもらうことにした。でも、会社に着いたら一緒に降りて、六本木から電車で帰ろう。

 空港のパーキングで迎えの車に乗り込む。

 制服を着た運転手がおり、助手席に山下さん、広い後部座席には亜嵐さんと私が座った。

「誕生日もちゃんと祝えなくてすまなかったね」

 車が走り出して、亜嵐さんが私の方へ体を向けて先ほど持っていたショッパーバッグを手渡す。

「ううん。大変なのにお花を送ってお祝いしてくださいましたよ。これは……?」

「お土産だ」

 ショッパーバッグの中にはいくつかの箱が入っている。そのひとつにチョコレートのイラストが描かれたラッピングが見える。

「ありがとうございます。うれしいです」

 車は首都高速湾岸線を走っているが、ちょうど混む時間で六本木へ着くのはもうしばらくかかりそうだ。

 亜嵐さんは膝の上に置いた私の手を握る。

「新学期が始まっただろう? 四年生だな。そろそろ式場探しもしような」

「はい。あと少し単位を取れば時間に余裕ができます」

「結婚式を挙げる場所は日本じゃなくても海外でもいい。外国で挙げたいのなら、一葉が行きたい国でしよう」

「ハワイみたいな海辺で挙げるのに憧れていたんです」

「ハワイか。いいな。キラキラ輝く海をバッグにしたウエディングドレス姿の一葉は、綺麗だろうな」

 き、綺麗……。

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