婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 治っていた熱が再びやって来て頬に手をやる。そんな私に、亜嵐さんは笑みを漏らした。

「すぐ赤くなるな。薄暗くてもわかる」

 亜嵐さんの手が熱を帯びた頬にあてられる。

 ふたりだけじゃないので運転手と山下さんが気になり、話を変える。

「あの、お兄様の件でご家族は大丈夫ですか?」

「心配かけてるね。祖父はかなり落ち込んでいるが、母も花音も看病に徹してくれている」

「なにもできなくてごめんなさい」

 いずれ家族になる身としては歯がゆいし、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「一葉の気持ちはわかっているから気にしないでいいんだ」

「亜嵐さん……」

 彼にもっと触れたい。

 そう思ったとき、車は首都高速湾岸線を降りて幹線道路に合流した。もうすぐ六本木に到着する。

 フォンターナ・モビーレは、亜嵐さんが住むレジデンスから徒歩十分ほどのところにある複合商業施設の、三十階ワンフロアを占めている。

 エントランスに車が止まる。

「神楽坂の彼女の家まで送ってくれ」

 亜嵐さんが運転手に指示をするが、私は彼の腕に手を置いて首を左右に振る。

「ひとりで帰ります。そのつもりで来たし。私のわがままなので、帰らせてください」

「一葉……」

 うんと頭を縦に振らない彼だ。

「本当に。そうしたいんです」

 きっぱり言いきると、ようやく小さなため息を漏らした後、「わかった」と言ってくれた。

「気をつけて帰るんだよ」

「はい。もう十八歳の頃の私じゃないんですから」

 亜嵐さんはふっと口もとを緩ませる。

「そうだな。もう大人だ」

 そう言いながらも、私の頭に大きな手のひらを置いてポンポンとなでた。

 臨海副都心に新しくオープンする高級ホテルのソファを、フォンターナ・モビーレですべて揃えるプロジェクトとのことで、契約にこぎつけるには日本支社長の亜嵐さんがいなくてはならないらしい。

 ミラノから帰国後、亜嵐さんは朝から晩まで忙殺された。

 日本にいる時間が限られているので、電話でほんの少し話すだけだった。

 そして四月の中旬、無事に契約を終わらせた亜嵐さんはミラノへ立った。お兄様の転院の件もあるが、今回の契約で本社の工場もフル稼働させなくてはならないという。

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