強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
恋が愛に変わる場所
「はぁ……」

 出国手続きを終えてカフェに入ると、自然とため息が出てしまう。

 しっかりとした食事をとる気にもなれず、軽食で済まそうと思ったけれどそれすら入りそうにない。


 仕方なくコーヒーだけを頼み、暇つぶし代わりにと持ってきてあった観光雑誌を開いた。

 日本でこれを見ていたときはただただワクワクしていて、まさかこんな状況になるなんて思ってもいなかった。


 ページをめくりながら、ケントと共に見た場所を思い出す。

 ローマ、ピサ、フィレンツェ、ミラノ。

 他にもシチリアとか一緒に行きたかったな、と出来もしない望みを思い浮かべ自嘲した。

 逃げたのは私の方だっていうのに……。


 ページをめくる手があるところで止まる。

 水の都・ベネチア。

 特に行って見たかった場所の一つ。
 明日、行くはずだった場所。


「ケントと、行きたかったな……」

 ポツリと零してハッとする。

 行けなくしたのは自分だっていうのに、何を勝手なことを言っているんだろう。


 自分勝手が過ぎる。


 思考を切り替えるように雑誌の文字に目を通す。

 そういえば、ベネチアでは結婚式やウェディングドレスでの写真撮影が出来るプランもあると聞いた。
 この雑誌にもそのことが少し書いてあった。
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