強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
 まさかと思う。

 でも、それ以外にこんな風にひざまづく理由が思い当たらなくて……。


 ボディーバッグから小さな小箱を取り出し私を見上げるケント。

 その小箱が私に向けられて開けられる動作が、スローモーションのように見えた。


「依子。俺と結婚してくれ」

「っ!」

 言葉が出てこなかった。


 出会ってからまだ一週間ほどしか経っていない。
 まずはお付き合いからじゃないのか。

 そんな理性的な考えも湧いてくる。


 でも嬉しさが、純白の色をして心の奥底から広がってきた。

 ケントの言葉を……申し出を……私は嬉しいと思っている。

 その事実だけがすべてを飲み込んだ。


「っ……っはい……はいっ!」

 簡単で、単純な返事しか口から出てこない。

 もっと、何か言うべきことがあると思うのに、それ以外の言葉が出てこなかった。


 涙が滲む目で見たケントの表情が、とても安心したように柔らかく緩む。

 その表情のまま立ち上がった彼は私の左手の薬指に小箱の中の指輪をはめた。

 男女の愛を強くすると言われている、ダイアモンドの指輪を。


 嬉しくてついに涙が零れ落ちると、周囲から拍手喝采が贈られた。

 こんな公衆の面前でプロポーズなんてすればこうなるに決まってる。


 私は恥ずかしく思いながらも、優しく見下ろしてくるケントに見つめられてやっぱり嬉しさの方が勝つと思った。
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