神、恋に落ちる
苦しい━━━━━
命にだって…元カノがいて当たり前なのに苦しい。

嫉妬心という言葉では片づけられない想いが、白羽の中を侵食していた。

後日、命とのデート中━━━━━
「あ、貴女……」
「え?あ…」
この前の人だ………

トイレに向かうと、女がいた。
どうして苦しい時に、その根源となっている人物に会わなきゃいけないのだろう。

「…………びっくりしちゃった!」
突然、女が声をかけてきた。

「え?」
「神が貴女のような、貧相な人を道具に選んだなんて……」
「道具?」
「そうよ。基本的にはモデルとかホステスみたいな女性が多いのに…」
「あの、道具って何ですか?貴女は命さんの元彼女さんじゃないんですか?」

「“命”さん?」

「え?神って、命さんのことを言ってるんですよね?」
「え、えぇ……そ、そうよ!」
「やっぱ…そうなんだ……」
「神……いや、命、貴方とのセックス物足りないんじゃないかしら?」
「え……そ、それって私が失神するからですか!?」

「は?失神…!?」
「はい…やっぱ、体力つけなきゃ!!
貴女はどうしてたんですか?
やっぱ、ジムとかで鍛えたりですか?」

「え……」
女は、かなり驚愕していた。
命とのセックスで“失神”なんてあり得ないからだ。
いつも命は、感情もなく本当に道具のように…ただ身体に溜まった欲を出すようにしか抱かない。
こっちの気持ちや体調などは、お構いなしだ。

命が満足すればそれでいいので、女の方はいつも物足りない。
気持ちいいなんて感覚も皆無だ。

「あ…ご、ごめんなさい……私、何言ってんだろ……
………じゃ、じゃあ…失礼しました……!」
そう言って、足早にトイレを出た椎那。


「白羽!!遅いよ~!
もしかして、体調悪い?」
白羽は無言で、命の胸に額をくっつけた。
「………」
「え……やっぱり、体調悪いんだね?
帰ろ?映画はまた今度ね!」
白羽の背中をゆっくり撫で、腰を抱き車に促した。

車までゆっくり歩きながら、背の高い命を見上げた白羽。
整った容姿の綺麗な顔だ。
「ん?白羽?きつい?」
白羽を見下ろす、優しい表情。
柔らかな声とトーン。

頬を撫でて、顔を覗き込んだ命。
「大丈夫?」
優しい手、キリッとした目。

「━━━━す、したいな…」
「ん?何?ごめん白羽、聞こえなかった」
「キス…したい…」
「白羽?いいの?ここ、外だよ?」

白羽は背伸びをして、命に顔を近づけた。
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