クラスの男子が全員、元カレだった件




「でも正直後悔してる」と長田治は言った。


「だって、小泉さんは小説を書くことをやめてしまったから……」


俯いて、今にも泣きそうな長田治を見ていると、私は彼と3日間だけ付き合った頃のことを思い出していた。


あの日、初めてこの喫茶店レインリリーで出会って、読んでいた本がたまたま一緒で、私が何気なく感想を聞いたら、戸惑いながらも独自の切り口で、感想を述べて、(つたな)いながらも、真剣で。


そんな姿を見ていると、何だかもっとそんな姿を見ていたい。もっと近くで、もっと見ていたい。そう思っていて、


「私たち、付き合おっか」


私はまだ名前も知らなかった。そんなの聞けばいいし、調べればわかる。


でも私は知らないままでいいような気がしていた。


その方が、太宰治が言った「(きょう)あるロマンス」だと思った。


知ってしまうと、夢が終わってしまうとでも思っていたのだろうか。


そして、彼が長田治であることを知ってしまった時、やっぱり夢は終わってしまった。


それでも、今なら思える。あの3日間は、私の中でかけがえのない貴重なものだった。



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