冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「ねぇ、ママ。大丈夫?」

 怪訝そうに七緒は紀香の顔をのぞき込む。紀香は言葉にならない声でなにかをブツブツとつぶやいている。

「そこまでだな」

 よく通る涼やかな声と共にリビングの扉が開いた。振り返った蝶子は予期せぬ晴臣の登場に目を丸くする。

「晴臣さん、どうして……」
「なんだ……どうやって入った?」

 蝶子以上に公平も驚いている。晴臣はもちろん観月家の住所を知っているが、蝶子は彼に合鍵を渡したりはしていない。公平の疑問はもっともだった。
 晴臣の背中からすっと姿をあらわした人物が言った。

「玄関の鍵、変えていなかったのね」

 細面の優しげな顔つき、柔らかい声、もちろん記憶のなかの彼女よりずっと年を重ねてはいるが……蝶子は声を震わせて叫んだ。

「お、お母さん!」



 
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