冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 ウェイターが運んできたコーヒーに口をつけながら、彼は少し懐かしそうに目を細めた。

「あの小さかった蝶子お嬢さんが若奥さまか。私も年を取るはずだ」

 彼は小夜子の失踪騒動が起きた当時に観月製薬の経理部に所属していたのだ。医療・製薬の業界は案外狭い。彼を見つけるのにさほど苦労はしなかった。
 晴臣は例の小夜子の横領騒動に水を向ける。彼はやや渋い表情になりながらも正直に話してくれた。

「あの件は観月社長が調査から処理まですべてひとりで済ませてしまって……小夜子さんなんかより私のほうがよっぽど有力な容疑者だったはずなんですがね」

 公平は経理部にいた人間に事情を聞くこともせず内々に済ませてしまったそうだ。

「個人的な印象で構わないんですが、小夜子さんが本当にやったと思いますか?」
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