冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 あけすけな晴臣に質問に彼はやや声をひそめる。

「う~ん。ここだけの話ですが、経理にいた人間はみんな思っていましたよ。お金を好き勝手にしていたのは小夜子さんではなくて……」

 彼は最後までは口にしなかったが、言わんとすることは理解できた。

「本当にありがとうございました」

 礼を言って店の前で別れようとすると、彼は逡巡するように視線を巡らせてから小さくつぶやいた。

「観月社長は離婚しただけだと言っていたが、小夜子さんが失踪したことは知っていました。私はなんだか怖くなってしまって逃げるように転職しましたが、あのとき社長を問いつめるべきだったのかもしれない」

 彼を責めるのは酷だろう。調べてみると、当時経理部にいた人間は多少の時期のズレはあってもみな観月製薬を去っていたのだ。

「あなたにはなんの責任もないと思います。お話を聞かせていただき本当に感謝しています」

 晴臣がそう言うと、彼はほっとしたように表情をゆるめた。

「蝶子お嬢さんを幸せにしてあげてくださいね」
「もちろんです」

 彼の背中を見送っていると、胸ポケットにいれたスマホが振動して着信を知らせる。

「もしもし」

 電話をかけてきたのは、興信所の調査員だった。

「――では、見つかったんですね?」

 晴臣は前のめりに聞き返す。なんの連絡もないのは生きている証拠、そう思ってはいたが、やはり安堵する気持ちが大きかった。

< 164 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop