冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
「さっきの図書館での君が、本来の姿だと俺は思う。聡明で思慮深く、とても魅力的な女性だ」

 ストレートな言葉で褒められた蝶子は、ドギマギして視線をさまよわせる。彼はなにを言おうとしているのだろう。黙って、続きを待つ。

「君は実家を離れたほうがいい。あの家では君の輝きが消えていくだけだ」
「えっと……」

 優しく、だが、きっぱりと諭すような口調で彼は言う。

「君の性格の問題かと思ったが、もっと根深いような気がする。精神的支配を甘く見てはダメだ。ケースによっては甲殻類アレルギーより、よっぽど深刻だ」

 蝶子の瞳が惑うように揺れる。彼と似たようなことを、真琴たちにも指摘されたことはあった。だが、そのときの蝶子はあまり真剣にとらえることはしなかった。

「このまま俺の家で一緒に暮らそう。君は俺の婚約者なのだから、なにも問題はない」

 こんな台詞を男性に言われるのはもちろん初めてで、おまけに相手は憧れている晴臣だ。蝶子の胸は甘くときめいた。が、すぐに現実を思い出す。

「でも、家を出るなんて……許されるのかな?」

 その言葉は彼に、ではなく自分に向けたものだった。晴臣はわずかに肩をすくめて、ため息を落す。
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