冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣はくすりと笑って、指先で胸の膨らみを撫でる。

「どうしてだ? こんなに美しいのに」

 晴臣は上半身を少しかがめて、蝶子の鎖骨に舌を這わせる。そして、ブラをたくしあげるとゆっくりと乳房を揉みしだいた。想像していたほど怖くはない、晴臣の手は優しくて心地いい。長い指先が薄紅色の果実をつまみ、ゆっくりと焦らすようにこね回す。自身の身体の奥からせりあがってくる未体験の感覚に、蝶子は耐えきれず浅く息を吐いた。

「ん、んんっ」

 こわばって固くなっていた蝶子の身体が少しずつほどけていく。それに呼応するように、彼女の唇からは甘い喘ぎが漏れはじめた。
 晴臣は蝶子を優しくベッドへ押し倒すと、自分も服を脱ぎぱさりと投げ捨てた。蝶子の上で膝立ちになった彼の、鍛えあげられた逞しい腹筋が蝶子の目を引く。
 なにかに吸い寄せられるように、蝶子は手を伸ばし彼のお腹に触れる。すると、晴臣が驚いたように目を瞬く。

「あ、ごめんなさい。つい……」

 蝶子は慌てて手をひっこめる。

(つい、なんなのよ。恥ずかしい……)

『あまりにも綺麗な肉体で触れてみたくなった』だなんて、とても言えない。彼はふっと口元をゆるめると、蝶子の手を取りもう一度同じ場所に戻した。

「好きなだけ触ればいい。この身体は君のものだ」

 しなやかな筋肉の隆起に、蝶子の鼓動はどんどんスピードを増していく。恥ずかしくてたまらないのに、いつまでも彼の肌に触れていたいと思ってしまう。
 晴臣はくくっと意地の悪い笑みを浮かべる。

「そのまま、その手をもう少し下におろしてくれてもいいけどな」

 蝶子は一瞬なにを言われたのかわからずきょとんとする。一拍遅れて、彼の意地悪を理解し、羞恥に全身を震わせた。

「冗談だ。今夜は、そこまでは求めないよ」

『今夜』を強調して、晴臣は言う。

(こ、今夜はってなに?)

 慌てふためく蝶子を無視して、晴臣は彼女の身体に覆いかぶさる。

「きゃあ」
「優しい手ほどきはここまでだ。ここから先は、ただの男になるから」

 その言葉どおり、晴臣は強く激しく蝶子のすべてを奪った。初めて知る溺れるほどの快楽の渦にのみこまれて、蝶子は果てた。全身に刻まれた甘い激情は、そう簡単には消せないだろう。
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