ちょうどいいので結婚します
『今度の土曜日、時間をつくってください。何時でもかまいません』
 千幸からメッセージが届くと、功至は「だよね」と呟いた。

 さすがに、このままで終わらそうとは千幸も思っていないだろうとわかっていたからだ。だが、功至としてはあと二度ある出勤日が終わってから、願わくば年明けにでも話したいと思っていた。

「まあ、彼女からしたら年内にケリつけてすっきりしたいかぁ」

 会社でも千幸と目が合うこともほぼ無かった。覚悟を決めて『わかりました』と返信した。


 功至は、最後に自分の気持ちを千幸に伝えるつもりだった。功至の本心を知れば、千幸は心を痛めるだろうことはわかっていた。自分のことで傷つけたくなかったし、困らせたいわけじゃなかった。それでも、と思う。最後だけ、一度だけ千幸に嫌な思いをさせてもこの想いを伝えたかった。

「いいのかな。ごめん、千幸(ちゆき)ちゃん」

 ただそうなると、最後の一日だけは会社で顔合わせて気まずいなと、躊躇する。だが、もうそこしか気持ちを伝えられる日は無かったのだ。

 飲み会も多々誘われたが、すべて断っていた。功至の家に千幸がくることはもうないのだろう。そう思うといつもの部屋が妙に殺風景に見えた。

「縁が無かった。俺には大それた夢だった」

 ここにいた千幸はまるで幻想のように感じた。幸せになってくれたらそれでいい。小さく呟いた声は功至の本心だった。
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