ちょうどいいので結婚します
 千幸は功至と最後の話を終えた後、愛一郎にうまくいかなかったと話すつもりだった。いくら自分がこの状況を受け入れられなくても、いずれは話さなくてはいけない。

 その前に、帰国した咲由美と会う約束をしていた。随分前にした約束のせいで咲由美は幸せな話を聞けると思っていることだろう。

「驚かせちゃうかな」
 千幸は一人自虐的に笑った。それでもきっと咲由美は千幸の最後の勇気に背中を押してくれるだろうと思う。

――……

 就業時間を終えると、会社を出て咲由美との待ち合わせに向かった。功至の出勤は今日とあと一日だけだ。約束の土曜日を入れても功至と会えるはあと二回ということになる。相変わらず、功至は胸が痛くなるほど素敵だった。別れが近いと思うと、より素敵に見えるものだろうか。そんな事を思ってしまった。

 咲由美と良一は二人、千幸の言葉にポカンとしていた。並ぶと結構似ている兄妹だ。千幸は一瞬の静寂にそんなことを思った。

「どどどういうこと!?」
「やっぱり、あの男!」

 千幸は覚悟はしていたが、急に賑やかになったことに後ずさった。こんなに取り乱している人が二人もいれば、自分はむしろ冷静でいられた。

「良一、あの男ってどういうこと? 何を知ってるの?」
「いや、何も知らない。一度見かけただけだしな」

 良一がいうと、咲由美は訝しげに眉を寄せ、千幸の方を確認した。千幸も本当だと頷いた。

「でもな、」
 良一はそのたった一度、功至と顔を合わせたこと、それから千幸から聞く話の中の功至とがどこか隔たりがある気がすると言った。
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