ちょうどいいので結婚します
「暗いと見にくいし」
「見にくい!?」
「うん。はい」

 そっと、差し出されたスマホの画面は、旅館やホテルが映し出されていた。

「これは……」
「うん。北海道。ししゃもの旬がギリギリなんだけど、どうかな?」
「功至さん、これずっと見てたの?」
「いや、千幸(ちゅき)ちゃんの寝顔と半々くらいかな。いや、6:4(ロクヨン)。んー、7:3(シチサン)かも」

 千幸はまた顔から火が出るほど赤くなったが、すぐに吹き出した。

「もう、功至さんてば。おっかしい。功至さん、思ってた人じゃなかった」
「……ごめん」
 功至はそうだろう自覚はあった。
「うん、思ったよりずっと、話しやすい」
「え、そう!? はは、良かった。ずっと緊張されちゃうと千幸(ちゅき)ちゃんも疲れるだろうなって心配してた」

 千幸は褒めたわけでは無かったが、喜んで笑った功至に良しとした。なぜなら、そこが嫌なのではなくそこも好きなのだから。

「うん。もう、大好き」
 意図せずそんな言葉が出てしまい、功至は
「俺、長生きしたいから初っ端に殺しに来ないで」と真顔で言った。

「で、旅行! 」
「今から予約取れる? もう無理なんじゃ……」
「そんなの、金にモノを言わせる!!」
「ちょっと、今からすごく物入りよ? 独立してすぐに安定はしないでしょう? 挙式費用に、新婚旅行も行きたいし、」
「あははは! 冗談だよ(でもないけど)。この時期は案外キャンセル出て安くグレードアップできたりする。電話予約になっちゃうけど。営業時間になったら、掛けてみるね」
「……はい」

 営業時間まで、することがなくなってしまった。
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