ちょうどいいので結婚します
「した」
「うん。じゃあ、店が開くまでは……」

 ここでようやく二人の息が合った。

 昨日、気持ちを伝えあい感情が昂った末、というのではなかった。

 長い片思いが実り喜んだのもつかの間、破談になり心身ともに疲弊していた。それが昨日、気持ちを吐き出せて、安堵して、惚けている状態だからこそ、功至も自分を出せたし、千幸も功至にたった一晩で言いたいことが言えるようになった。

「ごめん。多分、最初に間違えたんだ。降って湧いたような縁談に喜んでないで、最初から好きだって言えば良かった」
「私も。怠慢だった」

 ここから、お互い、疑う余地がないほど好きだと言い合った。今までの時間を取り戻すように、過去の事から、未来のこと、ささいなことまで語り、抱き合い、語った。優しい時間を過ごした。


「旅行、予約取れなくても来年でいいからね」
 千幸が言った。来年もししゃもの旬はやってくる。
「そっか。勉強忙しくても、そのくらいは行けるかな。来年も一緒にいるんだもんな」
「うん。再来年も。何なら五年後も。十年後も。もっと」
「もっと……。五十? 百? 」
「一生! 」

 功至がははっと笑った。
「俺、長生きするね」
「うん。わたしも」
 とても、千幸もつられて笑う。幸せな笑顔だった。


 結局、その後二人で寝過ごしてしまうことになった。
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