ちょうどいいので結婚します
 功至と多華子の酒は陽気なものだった。
「婚約おめでとう!!」
 もう何度目かの乾杯にジョッキを合わせた。
「いやー、どうも、どうも。大願成就!! もう俺死んでもいい 」
「だからー、せめて抱いてから死ねよ。そんで、子孫残して長生きして死ね」
「ええ、抱くの? そっか、どうしよう。触っていい? え、触っていいの、俺!」
「いや、むしろ、今後はアンタしか触れないのよ」
「独占!!」
「あぁあぁあぁ、羨ましい、私も彼氏くらい欲しい!!」
「……まあ、誰か当たっとくわ」
「面食いよ、私」
「はいはい、わかりました」

 二人とも呂律も、話の内容もおかしくなって来ていたが、月曜日であったので早めに切り上げることにした。上機嫌で店を出ると、秋の風が吹いていた。「ひんやりとして気持ち良いい」と二人笑いあった。

「あ……」
 不意に多華子が立ち止まったので、功至も足を止め、多華子の視線の先に視線を移した。

 そこには、千幸と良一の姿があった。
「良ちゃん、今日すっごい寒いね」
 身を縮めて、風を避けるように良一の近くに寄る、千幸の姿だった。アルコールの入ってない千幸にとって、秋の風は寒く感じたのだろう。

 そこから動けなくなった多華子と功至に、千幸の方も気がついたらしく、千幸は良一にだけ聞こえる声で「功至さんだ」と耳打ちした。千幸と良一も、功至と多華子の目の前まで来ると足を止めた。反射的に千幸は良一の背中に隠れてしまった。

 それに焦ったのは良一だった。何やってんだよ、誤解されるだろうが。良一は慌てて千幸を功至の目の前、至近距離に押し出した。
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