ちょうどいいので結婚します
「あれ、今日仕事だったんだよな?」
「うん。そうなんだけど、全然本人と話してなくて」
「あ、ああ。そうか。まあ、まだ公にしたわけじゃないしな。だけど、アイコンタクトとか、そんな素振りはあったんだろ?」
「それが……」

 千幸はおずおずとこの日の功至の様子を良一に伝えた。良一は訝しげな顔で顎に手を添えた。

「いや、ちーはともかく、その男、無反応過ぎないか? 本当に向こうには話が行ってるんだよな? ご両親だけじゃなくて本人に」
「うん。私も信じられなくて、さっきお父さんに確認したの。そしたら、ちゃんと《《あちら》》も喜んでたって」
「そっか、ならいいんだけど」
「うん。これからのことは二人で決めたら良いってあちらのご両親もうちの親も言ってくれて」
「そうだな。大人だもんなちーもこう見えて」
「もう、良ちゃん!」
「な、結婚するんだから遠慮せずにちゃんと何でも話すんだぞ。今の俺みたいに。いいな?」
「……うん。出来るかな。私、うまくやれるかな?」
「うまくやろうとしなくていい。ちーはそのままで。な?」
「うん。頑張る!」
 千幸は両手で力こぶを作ってみせた。いや、だから、頑張らなくっていいんだってと良一は言いかけて口をつぐんだ。言ってもきっと千幸は頑張ってしまうだろうから。幸せになっては欲しいが、結婚が決まっても、良一としては何とも心配であった。
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