ちょうどいいので結婚します
 千幸はただでさえ男性が苦手だ。更に功至といると、感情が高ぶってしまい、苦手意識に別の感情まで加わってますます何を話していいかわからなくなってしまう。

 さりげない会話というのが出来なかった。千幸は、仕事をしながら他の人がどんな会話をしているのか、耳をそば立てた。普通の世間話。その普通が千幸には難しいのだ。

 目の前の人たちは、仕事の話をして、ちょっとした雑談になっていた。このまま昼休憩に入る時間帯だった。千幸は意を決して立ち上がった。

「あのっ、お昼一緒に行きませんか?」
 思いきってそう言った。恥ずかしさから俯いたままだった。

「あ……」
 功至が口を開きかけると
「良いですね、何食べます?」
 すぐに他の人が賛同し、みんなで何を食べるかの相談して、歩きながら決めることになった。

「びっくりした。俺に言ったのかと思った」
 最後尾にいると思っていた功至はぼそり溢した。
「もちろん、一柳さんも一緒にというつもりで言いましたが」

 功至は誰もいないと思っていた自分の後ろに千幸がいたことに驚き、聞かれたことに手で口を覆った。千幸は功至のその行動に首を傾げた。

 功至が眉を下げたことで、千幸は何か悪かったのかと目を泳がせた。

「……今度は、二人で行きませんか?」
「……は、」
「一柳さーん、小宮山さーん、エレベーター停めてますよ、早く」
 呼ばれては急ぐしかなかった。

「また連絡します」
 功至はそう言って、千幸は頷いた。

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