ちょうどいいので結婚します
 この人数ですぐに入れる店となれば、そう選択肢は多くなかった。

 いつも通り千幸は功至とは離れて座ったが、みんなの雑談の輪には聞き手として入っていた。功至はそれを横目で捉え、ほほえましく思っていた。少し雰囲気が柔らかくなった気がした。

 みんなもそう思ったのだろうか、
「小宮山さんって、私生活謎ですよね」
などと軽口も出てきた。

「そうですか? 全然隠してるつもりはないのですが」
「そうなんですか? じゃあ色々質問しちゃおうかな」

 まずい、そう感じた功至は千幸に合図を送った。千幸も心得ておりますと功至の視線に頷いた。それでも一抹の不安が過った功至は質問する側を戒めた。

「ほらほら、そういうのはまたお酒の席ででも」
「あ、そうですね。じゃあ今度はみんなで飲みにでも行きます?」

  柏木さんがそう言ってくれてほっとしたのも束の間、
「じゃあ、一つだけ」
妹尾さんが人差し指を立てて千幸にせがむように言う。
「あ、はい。大丈夫です」
 千幸がそう言った。功至は言うしかなかったのだろうと察する。

「恋人がいらっしゃるか聞きたかったんです」

 そんなことだろうと思っていたが、千幸はどう答えるのか、功至はそれに合わせるつもりだった。
“いる”と言えば後々自分だったと冷やかされればいい。“いない”と言えばまだ少しこの関係を公にはしたくないのだろうと、判断しようと思っていた。

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