ちょうどいいので結婚します
「良い人だよ、ちゃんと」
「うん。だと良いんだけど」

 良一は何か引っかかりがあるような顔をしていた。

「良ちゃん、彼の事気に入らない?」
「うーん、まだ何とも。ちーの気持ちが大事だから。ただねえ、ちーが全然言いたいこと言えないのは駄目だと思う。さっき俺に言ったみたいに『スカートがいい』とか、些細なことでもちゃんと伝えろよ? 緊張するのはわかるけど、夫婦になるんだからな」
「うん。頑張る。……かなり頑張らなきゃならないけど」
 千幸がそう言うと良一は苦笑いした。
「まあな、ちーだからな。でも、こんなちーをちゃんと理解しようとする男ならいいなぁと俺は思うわけだ」
「すごく気遣いのある人だよ」
「仕事じゃないからな。プライベートで夫婦として、ちゃんと気遣えるかってこと」
「それは……」

  わからないと千幸は俯いた。功至は二人で会った時の方が業務的であった。だが、自分も仕事の時と同じ接し方をしてしまっているのだ。
「まあな、難しく考えすぎたら、余計駄目だしな。慣れだ、慣れ。毎日同じ飯食って、同じ湯に入って、同じベッドで寝る。嫌でも慣れるだろ」
「そっか。そうだよね。良ちゃん、やっぱり結婚したら一緒にお風呂入るの?」
「……いや、同じ湯船を使うって意味で言った。一緒に風呂に入るかはあちらに聞きなさい」

 良一が店内をキョロキョロ見回しながら、慌てた顔でそう言った。
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