ちょうどいいので結婚します
「ししゃもと言われて売っている魚のほとんどはカナダやノルウェーから輸入されたカペリンという代用魚なんです。本物のししゃもは、北海道の太平洋沿岸の一部にのみ生息しているらしく、鮭みたいに秋に川を遡上して産卵するんですって。ちょうど、今、10月から12月が旬みたいで、でも残念ながら私が買ってきたものはカペリンです。本物のししゃもは食べたことがなくって。高級魚だそうです。北海道ではお寿司もいただけると……」
 千幸が最後まで言い終わらないうちに功至は叫ぶように言ってしまった。

「行きましょう、北海道!」
 きょとんとした千幸にハッと我を取り戻した。一生懸命ししゃもについて話す千幸が(くっそ)かわいいなと思っていたのに、つい口をはさんでしまっていた。しかも、行きましょうとは。

「いいんですか? 」
「ええ、北海道なんてすぐそこですし、ははは」
「新婚旅行ということですか?」
「気が早いな。婚前旅行でしょう」
「あ、そうですね」
「まあ、どちらでも構いませんが」

 北海道はすぐそこでもないし、どちらの気が早いのかわからないがただ二人で赤くなるという時間を過ごした。

 功至は《《ごく自然》》に旅行に誘えたことで、本物のししゃもとやらに感謝していた。……さすが、本物は違うな。などと思っていた。
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