ちょうどいいので結婚します
 功至は(こんなにかわいい)千幸と手土産のギャップに戸惑っていた。
「ししゃも……ですか?」
 功至がそう言うと千幸はサッと青ざめた。
「ご、ごめんなさい」
「え、何がですか? 」
「一柳さんの好きなものがわからなかったもので、おつまみのお取り寄せやショップで人気のものを用意しました。もちろん私も食べたことがあって美味しいと思うものたちです。だけど、ししゃもは、ししゃもだけは私の好物で。ごめんなさい、手土産に自分の好物を持ってくるなんて。しかも、ここで食べる気でいたなんて」
 千幸があまりに憔悴するもので、功至は中身を選別することなくガンッと袋ごと冷蔵庫にぶち込むと千幸の元へと駆け寄った。

「いえ、手土産は大体の人間が自分の好物選びますし、一緒に食べるんだからいいじゃないですか。俺もししゃも(ちゅきちゃんがその細腕で持って来てくれたなら、ちゅきちゃんも含め)だっっっっい好きだし、いい火加減で焼くの楽しみです!!」
「ほ、本当ですか?」
「(ちょっと意外だったけど)本当です」

 千幸は羞恥からかうっすら涙の浮かんだ瞳で功至を見つめると、花がほころぶように笑った。そして、安堵からか、そこからは非常に饒舌になった。

「私、ししゃもが大好きで」
 功至は千幸の口から『大好き』などというワードが出てドキリとしたが、自分宛でない事に、あんな半乾きの魚などに嫉妬している場合ではないと思い直し、心を落ち着かせていた。
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