あやかし戦記 見えない糸
「ッ……ハアッ……ハアッ……だ、大丈夫ですか?」

荒い呼吸になりながら、助けた老夫婦をイヅナは見つめる。夫婦は巨人に怯え、体を震わせていたのだが、男性がいきなりイヅナを睨み付け、何か呪文を唱える。刹那、イヅナの体が宙に浮き、勢いよく地面に叩き付けられた。

「あなた、この人は私たちの命の恩人よ!?」

女性の声で、イヅナは自分に呪術がかけられたのだと気付く。それを認識すると、身体中が激しい痛みを覚え、出血している部分がジンジンと熱を持ち始める。

「よそ者に助けられるなど、呪術師としての一番の恥じゃ!こいつを殺してワシは自決する!」

興奮した男性がまた呪文を唱えようとし、女性が必死に何かを言っている。すると、「何してるんだ?」と低い声が響いた。

朦朧とする意識の中、イヅナが声のした方を見れば、腕を組んで激しい怒りをその目に浮かべたユージーンが立っている。ユージーンの怒りに、老夫婦は先ほど巨人に襲われそうになった時のように体を震わせていた。

「彼女、そしてアレス騎士団の皆さんを攻撃するな。これは村長からの命令だ。……わかったか?」
< 49 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop