惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 昔は彼女が木登りをする姿が好きだった。
 まるで森の妖精かのように、華麗な動きで木を伝う姿は美しかった・・・その姿を、今は見るのが辛かった。

「エリーゼ・・・すまない・・・」

 目の前から消えてしまったエリーゼを想い、俺は情けなくもただ謝ることしか出来なかった。

 エリーゼに告白すると誓った決意は、彼女の涙を見た時、一瞬で塵となってしまった・・・。
 なぜ俺は彼女の前ではいつもこうなってしまうのだろう・・・。
 あの時のように、また彼女を悲しませて泣かせてしまった・・・。
 どんなに力を付けても、地位を手に入れても・・・なんで彼女の前ではこんなにも無力なのだろうか・・・。

 今回の事も・・・俺の弱さからやり方を間違えた・・・。
 惚れ薬を使って、彼女の気持ちを無理やり俺に向けさせるなんて・・・。

「エリーゼはすべて俺が仕組んだことだと知ってしまったんだな・・・」

 俺は床に転がっている惚れ薬の小瓶を拾った。

「いや・・・エリーゼ嬢は何にも分かってないぞ・・・?惚れ薬を仕組んだ事以外は何一つ合ってない・・・今のエリーゼ嬢の頭の中のお前がやばいぞ・・・」

「ああ、そうだろうな・・・惚れ薬を使って俺の事を好きにさせるなんて、やばいだろ・・・幻滅したろうな・・・」

 俺は惚れ薬を持つ手に力を入れ、その小瓶を砕いた。
 中から液体が流れ落ち、俺の手にガラスの破片が刺さり、血が滴り落ちている。
 今は痛みもよく分からない・・・この胸の痛み以外は・・・。

「いや、そうじゃなくて・・・なんで君達、急に話が通じなくなるん?・・・っていうか、お前エリーゼ嬢に惚れ薬を飲ませたんじゃなかったのか?」

 こいつはさっきから何を言ってるんだ・・・?
 ・・・なんか少し老けたか・・・?

「俺は最初からエリーゼが好きなのに、エリーゼに飲ませても意味が無いだろ。」

「は?」

「は?」

 こいつは一体何を言ってるんだ?
 時間の無駄だからもう気にしないでおこう・・・そんなことよりも・・・。

「で・・・お前のそのふざけた格好はなんだ?」

 露出の高い白地のドレスを身に纏い、皇族専用の椅子に我が物顔で座ったその女は、まるで世界を闇に貶める魔王の様な雰囲気を醸し出していた。
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