惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「ユーリ・・・一体どういう事か、説明してくれるか?」

「あら、私の方も説明してほしいわ。ねえ、何これ?」

 先に質問した僕を受け流して、ユーリは椅子から立ち上がり、床に落ちている白い布を指で摘んだ。

「・・・うわ・・・なにこれ・・・良く見て芋虫ってとこかしら・・・?」

 ユーリが見つめる先には、白い布地にグシャグシャと緑色の刺繍糸が雑に縫い付けられている。
 ルーカスが言うには、エリーゼ嬢が刺繍した物らしいが、刺繍と呼ぶには酷すぎる。

「いや、それは蝶らしいぞ・・・ルーカス曰く、どっちも結果的に蝶だから同じだそうだ」

「・・・相変わらず、エリーゼ中心に世界が回ってる男ね。こんなゴミを大量に作らせてまで、エリーゼに会う口実を作りたかったのかしら」

「それ、ルーカスとエリーゼ嬢の前で絶対言うなよ・・・」

 たしかに、せっかくの良質の布地にぐちゃぐちゃに刺繍糸で縫い付けられてしまったら、もう掃除くらいにしか使い道はない。
 だがルーカスはそれらを全て、オーダーメイドした木箱に納めて大事に取っている。

 ルーカスのエリーゼ嬢への愛情と執着は異常だ。
 エリーゼ嬢がルーカスの事を好きじゃなかったらと思うとゾッとする。
 騎士時代から、彼には大切にしている女性がいる、というのは有名な話だった。

 戦地で命を落としかけた僕を救ってくれたルーカスへの大恩を返すべく、一時期はルーカスの『影』として暗躍していたが、僕はその事をすぐに後悔することになる。
 これと言って任務がない時には、定期的にエリーゼ嬢の安否確認をさせられた。
 往復3時間は軽くかかると言うのに・・・。

 「彼女の前に姿を見せるな」「5秒以上見つめるな」「彼女に近付く男は迷わず消せ」というルールを課せられ、エリーゼ嬢のストーカーみたいな事をさせられていた。
 なので、彼女と対面するのは今日が初めてだが、彼女の事はよく知っている。

「ねえ、あーんして」

 脳内が回想モードになっている時、いつの間にか僕の目の前に来ていたユーリが、少し顔を赤らめながら僕にそう言った。

 なんだか似たような事を最近見たような気もするけど、僕はそんな彼女に抗えず、妖術でもかかったかのように自然と口が開かれた。
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