惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
3.9:君を迎えに来た(ルーカスside)
「ああ・・・ルーカスおかえり・・・なんとか終わったよぉ・・・」

 俺の気配に気付いたダンはゆっくりと顔を上げた。
 魂でも抜き取られたかのように生気を失ったその顔は、俺の姿を見てうっすらと笑みを浮かべた。

「じゃぁ・・・今日こそ僕は帰るから・・・」

 ダンは椅子から立ち上がると、フラフラと体を振り子の様に揺らしながら俺の横を通り過ぎ、執務室を出ようとしている。

「待て。話がある」

 俺の言葉に、ダンはその場でピタリと一時停止すると、そのまま俺の顔を見ること無く言葉だけを発した。

「・・・それ・・・今じゃないと駄目・・・?」

「ああ・・・最優先事項が発生した」

「・・・うへええええええぇぇ・・・?」

 俺の言葉を聞いたダンは溶けるように床に流れ落ち、床と同化するかの(ごと)く平たくなった。
 そしてピクピクと肩を痙攣させながら少しだけ顔を上げた。

「何・・・?なんかトラブルでもあったの・・・?」

「エリーゼに惚れ薬を使った」

 長い沈黙の後、ダンは飛び起きてパチパチと瞬きしながら俺に顔を向けた。

「・・・・・・・・・は?まじ?惚れ薬を?」

 どうやら今ので目は覚めたらしいな。あと24時間くらい余裕で働いてくれるだろう。

「ああ、惚れ薬のおかげでエリーゼは俺の事を好きになってくれた。」

 惚れ薬の存在をコイツが信じるかは分からないが、事実なのだから仕方がない。
 だが、ダンは惚れ薬に関しては何も疑問に思っていない様で、代わりに少し意味深に眉をひそめ、ブツブツと何かを呟き始めた。

「・・・・・・そうか・・・まあ、別に使わなくても・・・いや、いっか、結果オーライか・・・。おめでとうルーカス。・・・じゃあ俺は帰るから!」

「おい待て。最優先事項があると言っただろうが」

 帰ろうとするダンを憤怒(ふんぬ)の形相で睨み付けると、扉のドアノブを掴んでいたダンは、名残惜しそうにその手を離した。
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