惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「サンドロス卿!こんな所へ来ていただけるなんて、光栄の至りでございますわ!」

 店に入るや否や、店主っぽい女性がルーカスに気付くと、深々と頭を下げて挨拶をした。

 サンドロスとはルーカスの性である。
 村ではそうやってルーカスを呼ぶ人はいなかったので、なんとなく疎外感を覚えた。

「俺の婚約者が驚くから、あまり畏まらないでほしい。それよりも、彼女に見合うドレスを頼みたい」

 あまりにも自然な流れで「婚約者」という言葉が出てきたので、ツッコミを入れるタイミングを完全に見失ってしまった。

「お任せ下さいませ!ではお嬢様、こちらへどうぞ~」

「エリーゼ、好きな物を買うといい。選べないなら、気になった物を全て買い取ろう」

「・・・え・・・?」

 サラッととんでもない言葉が聞こえてきたけど、私は急かされるように店主に連れられ、ルーカスをその場に残して試着室へと案内された。

 そこでされるがままに着ていた服を脱がされ、数名の女性従業員が手際良く採寸し始めた。

「あら・・・」

 いつの間にか着けていた手袋も脱がされていて、何もつけていない私の左手を見た店主が小さく声を出した。

「お嬢様、こちらで四本指用の手袋も御用意する事も出来ますけど、いかがなさいます?」

 店主は特に動じることも無く、変わらぬ口調で私に声をかけてきた。
 まさかそんな事を言われるとは思わなくて、私の方が少し動揺してしまった。

「いえ・・・普通ので・・・お願いします・・・」

「あら・・・よろしいのですか?」
 
 せっかくの提案は嬉しいけれど、私はこの傷を隠すために手袋をしているので、4本指の手袋では隠す事が出来なくなってしまう。
 店主は表情が曇った私の様子をしばらく見つめると、優しい口調で語りかけてきた。

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