惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「さあ、楽しいドレス選びの時間ですわよ!!早くしないと待ちきれなくなったサンドロス卿が部屋に入ってきちゃいますわ!!」

 しんみりとした空気を吹き飛ばす様に、店主の明るい声が部屋に再び活気を呼び寄せた。
 確かに、あまり待たせたら試着中にルーカスが入って来そうな気がする・・・。
 私はいつの間にかズラっと並べられたドレスの列に目を通した。

 繊細で透き通るようなレースをあしらったものや、まるでお花畑をイメージさせる様なもの、宝石箱の様に宝石を散りばめ、輝きを放つもの・・・その眩さに直視する事すらおこがましく感じた。
 
「あ、あの・・・すみません・・・ちょっと手持ちがなくて・・・」

「あら、大丈夫ですわよ!サンドロス卿に全て請求がいきますから!」

 おっふ・・・全然大丈夫くない。

「いえ、彼に迷惑かけるわけにはいかないので・・・」

 結婚すると決まった訳ではないのに、こんな豪華な物を買わせる訳にはいかない。

「迷惑・・・?まさか!彼は首都でも三本の指に入る大富豪ですわよ?この店のドレス全て購入したとしても、彼にとってははした金ですわ!」

 ・・・え・・・?
 ルーカスってそんなに凄い人なの・・・?
 数多くいる男爵の中の1人ってだけじゃないの・・・?

 いや・・・だとしても、これ以上、彼に余計な散財をさせるわけにはいかない・・・。
 ・・・すでに手遅れな気はしてるんだけど・・・!

「じゃ、じゃあ、せめてなるべく安い物にしてください!」

 念のため・・・少しでもお金が返せる物に・・・。

「ではドレスは質素な物にして、アクセサリーをたくさん御用意しますわ!」

「いや、それじゃあ意味ないです!!っていうかそっちの方が絶対高くつきますよね!?」

「お任せくださいませ!!」

「お任せ出来ません!!」

 少しの隙を見せれば付属品を付けようとする店主と、少しでも費用を抑えたい私の攻防戦はしばらく続いた結果、今は流行遅れとして値下がりした、付属品の少ないドレスを勝ち取ることに成功した。
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