消えた未来
 しかし、私は安心できても、久我君が病室にいないなんて、先生からしてみれば大変なことだろう。

 そう思ったのに、先生はなにも気にせず病室に入って行った。

「久我君、探さなくてもいいんですか?」

 私はというと、出入口付近から動けなかった。

 入ってもいいのだろうかという考えから、その場に立ち止まった。

「いい。ほかの入院患者さんのところに行ってるだけだから」

 その動じない姿から、こういうことはよくあるのだとわかった。

 人との関わりを大事にするところは、変わっていないらしい。

 先生はベッドを整え、冷蔵庫に飲み物を入れていく。

「あの、どうして私をここに連れて来たんですか? 先生は、私が久我君に関わるのは反対していましたよね」

 慣れた手つきで作業を進める先生に問いかける。

「あのときは、ただの興味本位で侑生に近付いてたのが気に入らなかったから。でも、今日ここに来たのは、そうじゃないんだろうなって思って。あと、今の侑生には織部さんが必要だと思ったから」

 なににも包まず出てきた一言目には驚いた。

 あまりいい印象は抱かれていないことは勘づいていたけど、そこまでとは知らなかった。

 そして、その次の発言は信じられなかった。

『俺の未来に、君はいらない』

 そんな言葉を残して消えた久我君が、私を必要としているとは到底思えなかった。
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