消えた未来
「侑生ね、あの日を境に胡散臭い笑顔ばかりするようになったんだ」

 それがさっきの発言とどう関係があるのかわからなくて、次の言葉を待つ。

「蘭子、喋りすぎ」

 だけど、背後から聞こえてきた言葉により、私の願望は叶わなかった。

 しかしそんなことはどうでもいい。

 今、私の後ろにいる人物。

 見なくても、声だけでわかる。

 話し方もあの頃のままだ。

 どうしよう。

 まだ顔を見ていないのに、声だけで嬉しくて泣きそうだ。

「私が連れてきた」

 おそらく、私がいることに対して不思議な顔でもしていたのだろう。

 先生はそう言いながら、近付いてくる。

 その表情は、見ているだけで私まで苦しくなる。

「……余計なお世話」

 それに追い打ちをかけるように、冷たい声と発言が聞こえてくる。

 さっきとは真逆の意味で、泣きたい。

「じゃあ、あからさまに弱っていくのやめてくれる? 私は原因知ってるからいいけど、美和さんの気持ちも考えて」

 反論が聞こえない。

 言い合いが終わってくれたのは助かるが、どうすればいいのかわからないのは、変わっていない。

 逃げたくとも、帰るのは先生が許してくれなさそうだし、身動きが取れない。

「とにかく、ちゃんと織部さんと話してくること。それまでは戻ってこないで」

 そして私たちは、先生に部屋から追い出された。
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