消えた未来
 ゆったりとした音楽も聴き心地がよくて、お姉ちゃんが気に入ったというのもわかる。

「お久しぶりです、マスター」

 私が店内に気を取られていたら、お姉ちゃんが言った。

 カウンターには、まさにこのお店に相応しい雰囲気を纏った男性がいる。

「本当に久しぶりですね。今日は晴香さんと一緒ではないんですか?」

 晴香さんは、お姉ちゃんの親友だ。

 姉御という言葉はこの人のために存在してるのでは、と思うくらい男前な人だ。

「晴香は忙しいみたいで。今日は妹と来ました」

 お姉ちゃんに紹介されて、軽く頭を下げる。

「ごゆっくりどうぞ」

 マスターに微笑まれて、なんだか照れてしまった。

 そしてお姉ちゃんが慣れたように席に向かうから、私は挙動不審になりながら、お姉ちゃんの向かいの席に座った。

「緊張してる?」

 からかうように言われて、視線を逸らす。

「こんな素敵なお店、来たことがないから」
「でも、気に入ったでしょ」

 そこまで見抜かれたのは、少しだけ恥ずかしい。

「ここのコーヒーは、コーヒーが苦手な真央でも飲めるくらい美味しいの。あと、チョコケーキが最高」

 お姉ちゃんは話しながらその味を思い出しているのか、幸せそうな顔をしている。
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