消えた未来
 その顔を見ていると、チョコケーキを食べたくなってくるけど、どうしてもそんな気分になれなかった。

「真央はなに頼む?」

 本来の目的を忘れたのではと思ってしまうほど、浮かれている。

 そんなにここのお店が好きだったなんて、知らなかった。

 いや、お気に入りのお店のことだけじゃない。

 きっと、お姉ちゃんのことで知らないことはたくさんある。

 それを思い知るには、今日のほんの数十分で十分だった。

「真央、聞いてる?」

 お姉ちゃんは私の顔の前で手を振っている。

「なに?」
「やっぱり聞いてなかった。なに頼む?って聞いたの」

 お姉ちゃんに言われて、メニューを見る。

「アイスココア」
「飲み物だけ? ケーキとかいらないの? あ、お金なら気にしないでいいからね」

 私が飲み物しか言わなかったのが、そこまで信じられなかったのだろうか。

 私からしてみれば、そんなに言ってくることのほうが驚きだ。

「今、なにか食べられる気がしなくて」
「そっか。ケーキはあとで頼めばいいもんね」

 そしてお姉ちゃんは慣れたように、カフェラテとアイスココアを注文した。

「真央も星那ちゃんとカフェ巡りとかができたらいいのにね」
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