消えた未来
「織部さんがどう思うかは織部さんの自由だけど、俺のことを俺が話していながら信じられないって言われたら、どうすればいいんだよ」

 その通りだ。

 久我君の言葉を信じなかったら、私は誰の言葉を信じるつもりなのだろう。

 噂でも信じるのか。

 ……噂?

「久我君が、怪しい薬を飲んでるって噂を聞いたことがある。それって、なにか病気を治すためのものなの?」

 唐突に思い出したことを聞いてしまったから、久我君はなにを言っているのかという目を向けてきた。

 なにか補足説明をしなければと思ったけど、もう頭が回らなかった。

 それに、一度久我君が病気かもしれないと思ってしまったから、その理由になりそうな過去を思い返して、勝手に信じようとしている。

 久我君は、そんなこと一つも言っていないのに。

 やっぱり、ちゃんとした事実を知るには本人に聞くしかないのだろう。

 聞いても信じなかったくせに、なにを言っているのやらと、自分でもバカみたいだと思う。

「……わかった。織部さんがちゃんと納得できるように説明する。でも、今すぐには無理」

 久我君はなにかを諦めたように見える。

 そんなふうにさせてしまって申し訳ないと思う反面、教えてもらえるということに喜んでいる自分がいた。
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