消えた未来
 それでもお礼が言いたいと思ったのに、久我君がスピードを上げたから、追いかけるのに必死になって、言えなかった。

 教室に着いて、久我君がドアを開けようと手を伸ばすと、振り向いた。

「じゃあ放課後、保健室で」

 急な約束に、戸惑ってしまう。

「話、聞きたいんじゃなかった?」
「うん。わかった」

 少し食い気味に頷いたから、久我君は片方の口角を上げた。

「織部さん、久我さん。もうすぐチャイムが鳴りますよ。はやく、教室に入りなさい」

 すると、加野先生が後ろから歩いてきた。

 私が返事をすると、久我君がドアを開ける。

「誰にも言うなよ」

 そして、私にだけ聞こえる声で、そう言った。

  ◆

 放課後になると、久我君はすぐに教室を出ていった。

 一緒に行く約束はしていなかったけど、なんだか置いていかれたような気がして、焦る。

「真央、もう早く帰る必要ないんじゃないの?」

 私より先に支度を終えた星那が、不思議そうに見てきた。

「それはそうなんだけど、ちょっと用事があって」
「ふうん」

 久我君に誰にも言わないでって言われたから誤魔化したけど、そのせいか、星那はどこか信じてくれていない。

「用事って、久我と?」
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