消えた未来
「まあ今回は完全に、久我にとっては迷惑でしかないだろうけど」
「励ますなら最後まで励ましてよ」

 そう言うと、星那は少しだけ舌を出して笑った。

 教室に着くと、私たちはそれぞれの席に荷物を置く。

 久我君はいなかった。

「真央は、久我となにがしたいの?」

 話が途中だったのと、話題の人がいなかったから、星那は私の席に来た。

 なにがしたいのかと言われると、難しい。

 久我君ともっと同じ時間を過ごしたいとしか思っていなくて、具体的なことまでは考えていなかった。

「……もっと、仲良くなりたい、かな」
「小学生か」

 ほかにいい言葉があったはずだって自分でもわかっているから、そのツッコミはやめてほしかった。

「本当にそんなことなの? ほかにあるでしょ。久我の私服が見たいとか、久我と思い出を作りたいとか、久我の悔しそうな顔が見たいとか」
「八神さんはそれを見てどうするんだよ」

 星那が声のボリュームのコントロールができなくなってきたとき、後ろから久我君の声がした。

「優越感に浸る」

 久我君に聞かれては困る内容だと思っていたのは、私だけだったみたいだ。

 星那はまったく動揺せずに言った。

 その堂々たる態度に、久我君は笑う。

 その笑顔があまりにも自然で、私は動揺とは違う鼓動を感じた。
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