酔いしれる情緒
「やっ、でも、寝る場所ないじゃん」
春の部屋にはベッドが一つ。
私は一体どこで寝ろと?
「寝る場所ならあるよ?」
部屋に入る前
入り口付近で立ち止まってしまったけれど、
グッと引かれてしまえばその反動で踏み入れてしまう。
「ベッド…一つしかないけど」
「十分だよ。一緒に寝るんだから」
「え」
一緒に、寝る?
「まあ、寝るにしてはまだ早いよね」
壁にかかってある時計に一瞬視線を移したかと思えば、すぐにその視線は私へと戻る。
「凛、ここ座って。」
春がベッドに腰掛けると、その隣をポンポンと叩いて部屋の中で突っ立っている私を誘う。
「凛の話したいこと、聞かせてほしい」
本当のことを知りたくない。
けど、春のことはもっと深く知っていきたい。
だからこそずっと躊躇していた。
でも春自身からそれについて触れられては
「…………うん。」
私は素直にそこへ腰掛ける。
知りたいけど知りたくない。そんな矛盾ばかりを考える私にとっては、このモヤモヤがスッキリする良い機会なのだろう。
スッキリするかどうかは春の返事次第だと思うけど…
春の隣。
肩が触れそうな、そんな距離。
たったその距離でさえも
鼓動は心地よく高鳴り始めた。