酔いしれる情緒
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「…………ん、」
深くまで落ちていた意識が
突然フッと浮上した。
なぜかというと、
微かに身体が揺れていたからだ。
それは誰かに身体を揺らされているわけではなく、今私のいるこの場所が揺れている。
そのことに気づいたのは目が覚めてからであって。
目線の先は流れゆく夜の街。
ガラス越しに見えるその光景は煌びやかで、街灯がこの車内を微かに明るく照らしていた。
────そう。
今私がいるのは車内。
そして後部座席。
運転席には誰かがいて、
後部座席には私ともう1人いる。
そしてそのもう1人の肩を借りて眠っていたらしい私は、今のこの状況に困惑し、ガバッと崩れていた体勢を戻した。
(え。まって、なんで)
分からない。なんで車の中?
あ、今、運転手さんと目が合った。
バックミラー越しではあるけど、その人と目が合うと「おはようございます」なんて聞き覚えのある声でそう言われた。
とりあえず私は今、由紀子さんが運転する車の中にいるらしい。
訳が分からないが、とりあえず会釈はする。
そしてもう1人、
確認しなければならない人がいる。
それは今私の隣にいるこの人。
「おはよ」
丸メガネに帽子をかぶって、マスクをして。
見るからに変装していることが丸わかりの
その姿。
それらによってほぼ顔は隠れているけれど
私はその声を酷く存じており、
(……なんで、アンタが…)
さっきまで橋本さんといたはずなのに、なぜ今隣にいるのは春なんだ。と、すぐにこの人が誰なのかを理解した。
「っ、」
ズキン、と頭が痛む。
考えれば考えるほど頭がズキズキして痛い。
額に手を当てて顔を俯かせると、隣にいる春が「大丈夫?」と何かを知っているような声色で話しかけてきた。
大丈夫、じゃない。
全くもって大丈夫な状況じゃない。
まずなんでアンタがいるのか、
橋本さんはどこに行ったのか
なんでこんなにも頭が痛いのか──…