酔いしれる情緒

────────────────





「…………ん、」




深くまで落ちていた意識が

突然フッと浮上した。



なぜかというと、

微かに身体が揺れていたからだ。



それは誰かに身体を揺らされているわけではなく、今私のいるこの場所が揺れている。





そのことに気づいたのは目が覚めてからであって。





目線の先は流れゆく夜の街。


ガラス越しに見えるその光景は煌びやかで、街灯がこの車内を微かに明るく照らしていた。




────そう。

今私がいるのは車内。

そして後部座席。


運転席には誰かがいて、

後部座席には私ともう1人いる。



そしてそのもう1人の肩を借りて眠っていたらしい私は、今のこの状況に困惑し、ガバッと崩れていた体勢を戻した。





(え。まって、なんで)





分からない。なんで車の中?


あ、今、運転手さんと目が合った。




バックミラー越しではあるけど、その人と目が合うと「おはようございます」なんて聞き覚えのある声でそう言われた。




とりあえず私は今、由紀子さんが運転する車の中にいるらしい。





訳が分からないが、とりあえず会釈はする。




そしてもう1人、

確認しなければならない人がいる。




それは今私の隣にいるこの人。





「おはよ」





丸メガネに帽子をかぶって、マスクをして。

見るからに変装していることが丸わかりの
その姿。




それらによってほぼ顔は隠れているけれど



私はその声を酷く存じており、





(……なんで、アンタが…)





さっきまで橋本さんといたはずなのに、なぜ今隣にいるのは春なんだ。と、すぐにこの人が誰なのかを理解した。





「っ、」





ズキン、と頭が痛む。


考えれば考えるほど頭がズキズキして痛い。




額に手を当てて顔を俯かせると、隣にいる春が「大丈夫?」と何かを知っているような声色で話しかけてきた。





大丈夫、じゃない。

全くもって大丈夫な状況じゃない。





まずなんでアンタがいるのか、


橋本さんはどこに行ったのか


なんでこんなにも頭が痛いのか──…

< 206 / 325 >

この作品をシェア

pagetop