酔いしれる情緒
「…………………は?」
なに……を言っているんだ?
遂に頭がおかしくなったのか?
それとも、その言葉の意味を知らないとか?
訳分からないことを言う春のせいで違う世界へと行きかけた脳内は店主の「えっ」と驚きの含んだ声によってハッと我に返り、慌ててその手を振り払おうとした。が。
「ちょっ…離して!」
「嫌だ。」
ギュゥと握られている手は振り払えることなく
春によって支配されてしまい、
「言ったじゃん、俺。約束覚えといてって」
「はぁ…?」
「ああでも忘れちゃったんだっけ?ほんと酷いよね~。俺そのために頑張ったのに」
「なにがっ……」
「凛には断る権利ないよ」
春は私の左手を掴んだまま、右手でダンボールの中に手を突っ込んだ。
おいそれ、今日入ってきたばかりの新冊だぞ。
雑に扱うなと注意する前に
春は私の前にその新冊を掲げた。
意地の悪い顔を浮かべて
私の反応を伺うように。
「ほら。約束──────したよね?」
心底嬉しそうな目をして。
その目といい、この本といい、
帯に書かれた
『主演:一ノ瀬櫂』の文字といい。
「あっ……」
それら全ては、私に『あの』ヤバい記憶を呼び起こさせるのに十分すぎるものだった。