酔いしれる情緒
ポツリと呟くように言ってしまったが、至近距離にいる春の耳にはしっかり届いたみたいで。
「じゃあ帰ろう!!
俺の家でいいよね?
あ、でも先に荷物取りに行こうか!
もうあの家は必要ないし契約も切らないとね。
大家さんと今連絡取れるかな~」
勝手に決め始めた今後のこと。
ルンルンと音が鳴ってそうな、春の周りに音符のようなものが見える気がする。
強引で我儘で
ニコニコと笑顔が溢れていて
なんだか幼い子供みたいだ。
こういう時の春は私が口出ししても聞く耳を持ってくれないことを知ってるから、私も口出しすることなく繋がれた手を握り返して春の後を追う。
この時も春は自身の体を盾にして
私の姿を上手く隠しながら歩き進めていた。
「ねえ、いいの?今更だと思うけど……
私達の関係が世間にばら撒かれるんだよね?」
「俺は困らないよ。
寧ろどんどんばらまいて欲しいくらい。
凛はイヤだった?顔出しは絶対にないし、今まで通り本屋で働けるよ。」
「私の心配なんかじゃなくて。……関係がバレたらアンタの仕事に影響が出るんじゃないの?」
何度も、頭の中で橋本さんの言葉が過ぎる。
女の影があるだけで今までの努力が水の泡になる。そう橋本は言っていた。
今回の件は
影、というか
もはやハッキリと大々的に
私達の関係性が世間に広がるだろう。
遠くから私達を見る人達が
春の首を絞める、そんな人達だから。
「そんなの気にしなくていいのに」
すると春は小さく笑った。
「何も心配はいらないよ。まずあいつらをここに来るよう仕向けたのは俺だし。こうなることを願ってしたことだからね」
そして春は軽く私の方に顔を向けて
「熱愛を撮られたって俺の人気が落ちるようなことは『絶対に』ないよ。
だから安心して俺と結婚して?」
……その自信は一体どこから湧き出るのか。
理由は……聞かなくてもいいか。
駅前の大きな看板だとか
主演を務めることも、雑誌の表紙に選ばれるのも
春は俳優一ノ瀬櫂として
ちゃんと結果を残しているからこそ堂々と言えるのだ。
「…それならいいけど」
白い息が宙を舞う。
私の返事に春はクスリと笑うと
私と同様、春の口からも白い息が漏れていた。
後ろから見える春の頬は薄らと赤くて
寒くないのかな。
そう思って
繋がれた手にもう一度力を込めた。