酔いしれる情緒
それからというもの、
婚姻届やら荷物の運搬やら
何から何までをあの後一気に済ませた私達。
私達……というか、私はほぼ春に言われるがまま行動していた気がする。
入籍は想像していたよりも遥かにスムーズで、まるでこの日のためにすべて準備してました、みたいな。
私の知らないところで今日1日のプランを勝手に立てられていたかのようだった。
全部が立ち止まることなく淡々と進んでいって、私はその様子を見ながら唖然とするばかり。
そして一息つけるタイミングが22時になってようやく訪れたわけで。
「疲れた…」
久々の春の家。
大きなテレビの前にあるソファーで
ぐでーっと背もたれに深く身体を預ける私。
春の姿は今ここにはなくて、春は今別の部屋で通話中だ。
相手はたぶん、橋本さん。13時を過ぎた辺りからずっと春の携帯に着信音が鳴り続けていたし。
その時間帯からして橋本さんは私の代わりにちゃんと13時まで働いてくれていたんだな、と。
有難いような、安心はしたけど
さすがに申し訳なさもある。
(お礼言わないとな…)
今ちょうど春は橋本と通話中であって、お礼を言うだけなら少しだけ変わってもらえば済む話なんだけど……それだけじゃ足りないというか。
橋本さんも社長なだけあって忙しいはずだし、なのにたった数時間であっても私の代わりに働いてくれたのかと思うと菓子折りか何か持って直接お礼を言うべきなんじゃないかと思った。
そう言えば、名刺、貰ってたっけ。
あの派手めな名刺。
ソファーに身を預けながら携帯を弄っていると
不意に薬指の指輪が瞳に映り込む。
今日、何度、見返したことか。
一般人の私でも見るからに高いだろうなって事が分かるそのリング。
「私本当に結婚したんだ…」
これを見る度に何度もそう実感する。
何の取り柄もない一般人が
演技力が高くて観た人全てを惹き込んでしまう、そんな人気俳優と結婚することになるなんて一体誰が予想出来ただろう。