海とメロンパンと恋
踏み出す勇気





「・・・私も、桐悟さんが好きです」







踏み出せた勇気を

桐悟さんは長い腕で身体ごと引き寄せて抱きしめてくれた


「・・・胡桃」


桐悟さんの腕の中で聞いた声は
ダイレクトに耳に響いて心拍数が上がる


「嬉しい、凄げぇ嬉しい」


子供みたいに声を弾ませる桐悟さんも
身体は僅かに震えていて


波の音だけに守られながら
暫く桐悟さんに寄りかかっていた


そんな二人の耳に飛び込んできたのは


「ゴホンっ」


態とらしい咳だった


「「・・・っ」」


慌てて離れると、その咳の主を振り返った


「・・・お、父さん」


「っ!」


私の声に驚いた桐悟さんは
堤防から飛び降りると丁寧に頭を下げた


「ご挨拶が遅れました
穂高桐悟と申します」


「久しぶりだな」


「はい、ご無沙汰しています」


久しぶり?面識があるということだろうか?


お父さんの顔を凝視する私に


「一先ず、二人とも中に入りなさい
外でイチャイチャされると
明日からがパニックになるからな」


お父さんは肩をすくめて家へと踵を返した


「・・・っ」


忘れていた訳じゃないけれど
此処が外だということを今更ながらに思い出した


「桐悟さん、時間大丈夫ですか?」


「あぁ、平気だ」


堤防の下から伸ばしてくれた手を取って


いつもより楽に着地した私と
桐悟さんは手を繋いだまま家へと向かった


「いらっしゃい」


「初めまして。穂高桐悟と申します」


玄関で待ち受けていたお母さんとは
面識はないらしい


「柚真に聞いていた以上ね」


端折りすぎて桐悟さんが首を傾げるのもお構いなしに


「どうぞ〜」


軽く迎え入れたお母さん


いつもの居間には
見たこともない立派な座布団が並んでいた










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