海とメロンパンと恋
魔の巣窟へ


翌日はお兄ちゃんを送り出して
家事を大急ぎで済ませると牛若丸を迎えに出かけた


『いいか、道端で声をかけられても
徹底的に無視しろよ!』


出勤前に何度も念押しされて
いい加減反論もウンザリして


お得意の『はいはい』口撃でなんとか躱した


道端で声をかけられて無視していいのはキャッチやナンパだけなら兎も角


お兄ちゃんにかかれば
全てが危ない対象になるからややこしい


いつもと同じ涼しげな目元でお辞儀をする宮武さんに会釈をしてエントランスを抜ける


大通りを歩いて目的のペットホテルへと急ぐ


『景色なんかに気を取られていると
それが隙になるんだからな!』


頭に蘇るのは過保護お兄ちゃんの声


大体、午前中に声をかけてくる人なんて
よっぽど困ってる人かアンケートくらいでしょう


呆れ気味に肩を上げて
早足に集中する


そのお陰か十分も経たないうちに
大通り沿いの店舗に到着した


ペットホテルとはいっても
ショップもトリミングコーナーもあって

見応え充分な店内

ウッカリおやつを買いそうになる気分を堪えながら
奥の専用カウンターへと向かった


「高橋牛若丸を迎えに来ました」


予め私が迎えに行くことをお兄ちゃんが連絡してくれていたから


受け渡しはスムーズで
一泊時の様子を教えてくれたトリマーさんにお礼を言っている間に


奥から牛若丸が出てきた


「ワンッ」


お兄ちゃんだと思っていたのか
私の姿を見るなり
ありえない速度で振られる尻尾


きっと、あのゴミ屋敷が辛かったに違いない


暫し抱きついて撫でまわしたあと
リードを手に巻きつけると外へと出た




ピタリと隣に張り付く牛若丸は
見られることに慣れているのか澄まし顔


リードはほぼ手に巻き取って
首元に触れながら歩いているだけで楽しいけれど


既に太陽は高い場所にあるから
少しでも早くアスファルトから解放してあげなきゃ


「牛若丸、頑張って」


帰りは五分も掛からずマンションに戻れた
















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