海とメロンパンと恋



「お兄ちゃん、面接日聞いておいて貰える?」


「あぁ、明日聞いておく」


「よろしくお願いします」


「任せたまえ、妹よ」


面白い切り返しに落ち込みそうになっていた気分が上昇する


「でも、良いのか?もう一社の返事を待ってからでも遅くはないぞ?」


「ん、良いの。面接も上手くいかなかったし
多分、お兄ちゃんにお願いするはずだから」


「そうか、じゃあそんな可哀想な妹を
今夜は食事に誘おうかな〜」


「え、外食?」


「嫌か?」


「嫌じゃないっ、嬉しいっ」


“外食”というだけでテンションが上がる単純な私を


「お子ちゃま」なんて揶揄ってくるお兄ちゃん


なんでこんなに“外食”が嬉しいのかって?


それはね・・・


実家の街はちょっと郊外にあって


飲食店が駅前に数軒という極端に少ない所なの
だから“外食”なんて、普段は着ないお洒落をして電車に乗って
プチ旅行に行くレベルの滅多にないイベントになるってわけ


気分が上がったお陰で
普段は集中してても三十分以上かかる履歴書の記入も


あっという間に仕上がった


「現金なやつ」


「だってぇ」


「嬉しいんだろ?」


「せいか〜い!」


語尾に音符が飛ぶように返事をすると
テーブル上をサッと片付けて

和室へと飛び込んだ


「何着よう・・・」


襖を開いて吊り下がる洋服を眺める
就活用のリクルートスーツが二着に

ワンピースが二着

牛若丸と散歩するためのジャージ


ため息の落ちるようなラインナップに肩を落とした


「胡桃〜」


「ん〜?」


呼びかけに応じたタイミングで扉が開いた


突っ立ったままの私を見て


「どうした」


部屋に入ってきたお兄ちゃんは
押し入れを見ながら固まる私の頭の上に手を置いた


「服か?」


「・・・うん」


乙女心を察してくれるお兄ちゃんにも


「今着てるのも可愛いぞ?」


このもどかしさは理解出来ないようで


それでも・・・


「あっちと違って外食は普通のことだから
何着てても大丈夫だと思うぞ?
ドレス着る必要のあるレストランなら
今から買いに連れて行ってもやるけどな」


ククと笑ってフォローしてくれるから
少し気分が楽になった










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