海とメロンパンと恋



[不採用]



結局全滅で終わってしまった


落ち込む間も無く
今日は木村病院の面接


紹介してくれたお兄ちゃんの顔に泥を塗るわけにはいかない

身だしなみを姿見で確認すると
牛若丸の頭を撫でて家を出た


「いってらっしゃいませ」


カウンターの中から涼しげな笑顔を向けてくれる
宮武さんに小さく会釈して表通りに出た


牛若丸の散歩コースを辿るように


マンション脇の道から裏の公園に入る
グルリと遊歩道を半周して

マンションの反対側に出ると
高く聳え立つ木村病院が見えた


「近すぎだよね」


公園を挟んだ立地のマンションと木村病院

お兄ちゃんが徒歩通勤だと笑った訳がコレ


牛若丸の散歩中には窓から手を振ってくれるお兄ちゃんにも


苦笑いしか返せなかった


総合受け付けで名前を告げて人事担当者さんを待っていると


「胡桃っ」


お兄ちゃんが現れた


「ん?」


「俺が案内する」


「え」


「ほら、行くぞ」


めちゃくちゃ緊張していたのに
お兄ちゃんの登場で良い具合に肩の力が抜けた


お兄ちゃんとお喋りしているうちに着いたのは


「・・・っ」


[院長室]の前だった


いきなりのラスボス登場?

驚いているうちに

中へ入ったお兄ちゃんに手を引かれて

気持ちを落ち着ける暇もなく

気がつけば・・・
ソファに腰掛ける木村院長の向かい側に座っていた

お兄ちゃんの家に遊びに来るたびに
父から持たされたお土産を渡して挨拶をしていたから

実は木村院長に会うのは四度目


「胡桃ちゃん、久しぶりだな」


「あ、お久しぶりです」


「元気そうでなにより」


「ありがとうございます」


「ってなことで」


「・・・はい?」


「採用!」


「・・・・・・え」


面接とか、筆記試験とか


「履歴書だけ貰っとく」


促されて鞄から取り出す
それを何故かお兄ちゃんがサッと取って
木村院長へと渡した


「お、シスコンか」


「院長、危ないんで」


「ハハハ、流石にねぇだろ」


「ま、もう面接終わりですよね?」


「あぁ、この後総務課で内定通知書貰って帰ると良い」


「・・・・・・っ」


こうして面接という名のお喋りは五分も経たずに終わった






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