海とメロンパンと恋
糖度は高く



桐悟さんにメロンパンを焼いた日
夕飯の下拵えだけでも陽治さん達としたいと言った私は


最後まで桐悟さんの膝の上から下されることはなかった


「胡桃がすることじゃない」
「俺より陽治を取るのか」
「離れたくねぇ」


紡ぎ出される桐悟さんの言葉は
六つも上だとは思えないほどで


私の真似だと言いながら
尖らせた口は可愛いとさえ思った


離れたくない理由はたくさん聞いたけれど


「桐悟さんに作ってあげたいな」


結局のところ“お願い”に負けて

顔を顰めた桐悟さんも
「次な」と渋々諦めてくれた


「胡桃が義務みたいに感じて
負担に思うのが嫌なんだ」


反対する理由は私の為


「お料理もパン作りも“好き”なん、の
私が作ったものを“美味しい”と食べてくれるだけで
どちらも笑顔になるでしょ、う?」


だから義務じゃないと伝えた思いを
桐悟さんは「たまになら」と納得してくれた


「てか、胡桃の喋り方が可笑しい」


ここまで気付かないフリしてくれたなら
帰るまで放っておいて欲しかったのに


ついつい敬語になりそうなのを
誤魔化していたら

抑揚も息継ぎもおかしなことになっていたことを

今更ながら出してくるなんて・・・


「狡い」


同時に口も尖らせたけれど
それにクッと肩を震わせた桐悟さんは


「上手く誤魔化したつもりか知らねぇが
アイツらの前で罰を実行しなかった俺に感謝しろよ?」


一瞬鋭く光って見えた三白眼は
次の瞬間には甘く細められて


その双眸に捕まって動けない私は
合わせられた唇の熱に浮かされる



散々翻弄されたあとは



「胡桃」



桐悟さんの甘い声で更に身体から力が抜けて


どこか嬉しそうな桐悟さんに抱かれたまま


長い指が髪を梳くたび
胸がキュウと締め付けられる音が身体にいつまでも響いていた













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